展覧会みどころ

みどころ①

日本初! 世界有数の規模を誇る素描コレクションから選りすぐりの名品を紹介

世界的にみて質、量ともに充実したスウェーデン国立美術館の素描コレクションから、選りすぐった名品約80点を日本で初めて本格的に紹介します。

みどころ②

芸術家の技量と構想力のすべてが注ぎ込まれている、
素描の魅力を堪能

作家の手の跡がより直接的に感じられ、制作の試行錯誤の過程や作家独自のこだわりを垣間見ることができる、素描の魅力を存分に堪能いただけます。

みどころ③

デューラー、ルーベンス、
レンブラントら巨匠が残した
名品の数々

美術史に名を連ねる芸術家も多くの素描を残しました。彼らの素描作品を通して、巨匠たちの創造の場に直接立ち会っているような臨場感を味わうことができるでしょう。

第1章

イタリア

ルネサンス、マニエリスム、バロックと燦然と輝く美術の中心地であり続けたイタリア。第1章の出品作の中にも、著名な巨匠たちの作品が複数含まれます。なかでも、躍動感のある筆致で仕上げられたバロッチの頭部習作や、まさに素描を制作中の仲間の画家を描きとめたカラッチの肖像素描は、本章の目玉作品です。このほかの注目作として、パルミジャニーノの油彩の代表作《長い首の聖母》と関連づけられる構図習作や、ジョヴァンニ・ダ・ウーディネの愛らしい雀のスケッチなども必見です。

アンニーバレ・カラッチ《画家ルイージ・カルディ、通称チゴリの肖像》

1604-09年頃/赤チョーク、褐色インクによる書き込み、黒インクによる枠線、紙/21.0x16.5cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum 2015

ジョヴァンニ・ダ・ウーディネ《空飛ぶ雀》

水彩、赤チョークによるあたりづけ、紙/13.8x16.8cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum 2016

空飛ぶ雀を描いた素描である。水彩絵具の仕上げの下に、赤チョークの下描きの跡が認められる。具体的に関係があるかは不明であるものの、本作によく似た空飛ぶ鳥がヴァティカンのロッジアの装飾に見られる。

フェデリコ・バロッチ《後ろから見た男性の頭部》

黒と赤のチョーク、混色したチョーク、黒の枠線、青色の紙/36.7x25.3cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum 2016

現在ルーヴル美術館に所蔵される油彩《キリストの割礼》で、手前にひざまずく若い羊飼いの頭部習作。大胆で素早い筆致は新鮮で、画家の制作の現場に立ち会っているような臨場感をもたらす。

チェッコ・ブラーヴォ《2柱の天使の習作》

赤チョーク、紙/27.3x17.5cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum

パルミジャニーノ(フランチェスコ・マッツォーラ)《聖ヨハネと男性聖人を伴う「長い首の聖母」のための習作、左に向かって歩く男性》

ペン、褐色インク、灰色の淡彩、赤チョーク、紙/9.0x9.5cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum

フィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されるパルミジャニーノの油彩の代表作《長い首の聖母》に関連づけられる習作。錯綜する線からは、画家の試行錯誤の跡が見て取れる。なお、左端の人物像は、別の作品のための習作と考えられる。

第2章

フランス

第2章では、パリ南東方フォンテーヌブローの宮廷で活動した画家たちによる舞台衣装のデザインに始まり、ベランジュやカロらロレーヌ地方が輩出した個性あふれる作家たち、さらに、ヴーエやル・シュウールらパリ画壇を率いたフランス・バロックを代表する画家たちの作品を見ていきます。またこの章では、スウェーデン国立美術館の素描コレクションの基礎を築いたニコデムス・テッシンが、自邸の天井装飾のデザインとして制作させた素描もご紹介します。

ルネ・ショヴォー《テッシン邸大広間の天井のためのデザイン》

1690年代/ペン、黒インク、筆、不透明水彩、透明水彩、金泥、紙/69.8x59.5cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum 2012

ニコロ・デッラバーテに帰属《蛙男》

ペン、褐色インク、淡い褐色の淡彩、紙(本紙より切り抜いて別紙に貼り付け)/45.8x34.5cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Hans Thorwid/Nationalmuseum 2012

鱗を思わせるフリルのついた衣装をつけ、葦笛と捕まえた蛙の入った網を持って歩く薄気味悪い蛙男。役柄の詳細は不明ながら、この蛙男は劇の登場人物で、本作は舞台衣装のデザインと考えられる。

ジャック・ベランジュ《女庭師》

ペン、褐色インク、青の淡彩、グラファイト、赤チョーク、尖筆による部分的な印づけ、紙(本紙より切り抜いて別紙に貼り付け)/45.8x34.5cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum 2016

空想もまじえて瀟洒に描き出された女庭師。陰影を表すための淡い青の水彩が、繊細な印象をもたらす。本作は版画の準備素描として制作されたもので、展覧会ではその完成作の版画と並べて展示する。

シモン・ヴ―エ《聖エリザベト》

黒チョーク、白のハイライト、灰色の紙/ 41.4x18.5cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum

ウスタシュ・ル・シュウール《ひざまずく羊飼い》

黒チョーク、白チョークによるハイライト、褐色の紙/35.5x22.0cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum 2016

現在フランスのラ・ロシェル美術館に所蔵される《羊飼いの礼拝》の準備素描として制作されたもの。力強さと優雅さを兼ね備え、細部まで描き込まれた完成度の高さに、画家が準備素描を入念に制作していたことが見て取れる。

第3章

ドイツ

第3章では、16世紀のものを中心に、ドイツ(厳密には、スイス、オーストリア等を含むドイツ語圏地域)の作品を見ていきます。数の上では他の章に比べてやや小規模ながら、質の面では決して見劣りしません。特に注目すべきは、グリューネヴァルトとバルドゥング・グリーンがそれぞれ手掛けた老人と青年の頭部習作、デューラーによる若い女性の肖像です。いずれもドイツ・ルネサンスの代表的画家による非常に見応えがある作品です。

アルブレヒト・デューラー《三編みの若い女性の肖像》

1515年/黒チョーク、木炭、紙/42.3x29.4cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum 2015

モニュメンタルかつ繊細に、若い女性を写実的に描き出した素描で、メトロポリタン美術館の油彩《聖母子と聖アンナ》との関係が指摘されている。モデルはデューラーの親戚ないし知人の娘だと推測される。凝った三編みや豪華な髪飾りは当時流行のスタイルであろう。

ルートヴィヒ・ショーンガウアー周辺《一群の戦士たち》

ペン、褐色インク、紙/20.5x31.2cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum

ゲオルク・レンベルガー《8つの男性の頭部習作》

ペン、褐色インク、紙/14.6x21.1cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum

マティアス・グリューネヴァルト《髭のない老人の頭部》

木炭、紙/25.2x19.0cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum 2016

ハンス・バルドゥング・グリーン《下から見た若い男性の頭部》

木炭、紙/20.5x20.0cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum

若い男性の頭部を大胆に下方から見上げて描く。苦しげで絶望的にも見える表情を写したこの頭部習作には、バンベルク州立美術館所蔵の油彩《ノアの大洪水》との関連が指摘されている。

第4章

ネーデルラント

ネーデルラントとは、現在のベルギー、オランダにあたる地域を指します。本章で紹介する作品は17世紀のものが中心ですが、絵画で扱われる主題の幅が広がった当時のネーデルラント美術の傾向を反映して、聖書の物語、風俗、風景、動物を描いたものなど様々な作例が見られます。この章ではヤン・ブリューゲル(父)やルーベンスのほか、レンブラントの作品も2点紹介します。ホルツィウスのチャーミングな自画像や、気持ち良さそうに眠る小犬を描いたフィッセルの素描も見逃せません。

コルネリス・フィッセル《眠る犬》

17世紀半ば頃/黒と赤のチョーク、黒の淡彩、黒の枠線、紙/12.2x17.2cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Hans Thorwid/Nationalmuseum 2009

レンブラント・ファン・レイン《キリスト捕縛》

ペン、褐色インク、褐色と灰色の淡彩、白色による修正、紙/スウェーデン国立美術館蔵/20.5x30.1cm/©Hans Thorwid/Nationalmuseum 2009

ユダの裏切りにより逮捕されるキリストを描く。神秘の光を放つキリストは、十字架上の死という運命を受け入れているかのごとく穏やかな佇まいを見せる。その気高く神々しい姿に捕縛者たちも圧倒されているようだ。

ヤン・ブリューゲル(父)《旅人と牛飼いのいる森林地帯》

1608‐11年頃/ペン、黒と褐色のインク、青の淡彩、紙/19.8x25.8cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum

人々や家畜が行きかう木立の間の道をとらえた風景素描である。ペン線描は繊細で、黒と褐色のインクの使い分け、みずみずしい緑がかった青の淡彩の濃淡が空間に奥行きをもたらしている。

ペーテル・パウル・ルーベンス《アランデル伯爵の家臣、ロビン》

1620年/ペン、褐色インク、黒と赤のチョーク、白チョークによるハイライト、黒インクによる枠線、紙/40.8x25.8cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum

ヘンドリク・ホルツィウス《自画像》

1590-91年頃/黒、赤、黄のチョーク、青と緑の淡彩、白チョーク、黒の枠線、紙/36.5x29.2cm/スウェーデン国立美術館蔵/©Cecilia Heisser/Nationalmuseum 2015

複数の色のチョークと水彩により仕上げられた自画像。光を反射する虹彩や黒い瞳孔が繊細に描き分けられた淡いブルーの瞳は生気を伝え、とりわけ魅力的である。制作目的については、友人への贈り物等の可能性が指摘されるが、特定には至っていない。

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